~ イタリア語の歌を聴いてみませんか? ~ 05.お気に入りの歌 / ~ イタリア語の歌を聴いてみませんか? ~ 第5回


05.お気に入りの歌 / ~ イタリア語の歌を聴いてみませんか? ~ 第5回
《L'amante della musica》

このあたりで、ぼくのお気に入りの歌をいくつか紹介しておきたい。 そうした歌は非常にたくさんあるので、その中からいくつか選び出すのはなかなか難しい。 とはいえ、ルーチョ・バッティスティを外すわけにはいかない。 今年はバッティスティが亡くなってちょうど10年になる(1998年9月9日没)。 1943年生まれの彼は、もし生きていたら65歳になっていた。

何年も前のことだが、ミュンヘンからフィレンツェへ向かう夜行列車の中でうとうとしていると、 なにやら歌声が聴こえてきた。 そういえばすぐ傍のコンパートメントで、数人の若者がギターを奏でながら陽気に歌を歌っていたな、 こっちは疲れていて眠いのだからいいかげんにしてくれよ、とぼくは思いながらも、 どこかで聴いたことのある歌で、少し気になっていた。 そうだ、バッティスティだ。その後もバッティスティの曲がしばらくの間漂ってきた。 本人の歌声にはまだまだ及ばないなと馬鹿なことをこっそり考えながらも、 今でも若い人たちにも親しまれているんだなと感慨深くて、ちょっぴりうれしかった。 そういえば、2006年のトリノ五輪開会式で、 イタリア選手団の入場のときに流れた曲もバッティスティだった (テレビでぼんやり見ていただけなのではっきりとはしないが、確か「una donna per amico」だったと思う)。 ほとんど国民的歌手だと言ってもいいのかもしれない。 だけど、どうも日本では知名度はそれほどでもないようだ。

決して美しい歌声というわけではなく、ハスキー、しゃがれ声といった方が近いのかもしれない。 別段上手というわけでもない、そして妙にぎこちなさを感じる歌声。 でもそのぎこちなさが、「魂」と呼んでもいいのかもしれない何かを感じさせてくれる。 それが、今なお多くのイタリア人たちの心を捉える理由のひとつなのかもしれないし、 少なくとも、その歌声は、ぼくの心をつかんで止まない。 特にぼくが好きなのは「emozioni」。 彼の数多い代表曲の一つで、タイトルの通り、情感溢れる名曲だと思う。 溢れ出してくるさまざまな感情が、淡々と、そして時に、まさに溢れ出すままに、歌われている。 日本のカンツォーネ歌手である高橋良吉のアルバム「フィレンツェの空」にはこの曲の日本語カバー曲が収録されているが、 そこでは「こみあげる想い」と訳されていた。なかなかいい訳だと思う。

バッティスティとはまったくタイプが違う歌い手だが、大御所フランコ・バッティアートもぼくのお気に入りである。 もう60歳を過ぎたというのに、活動力はまったく衰えないようで、ほとんど毎年のようにアルバムを出しており、 ポップス、オペラ、宗教曲、実験音楽など、アルバム毎にさまざまな試みを行っている。 未見だが、近年は映画製作にも乗り出して、二本の作品を監督した。 彼の場合、それぞれのアルバムから醸し出される独特の雰囲気がぼくは好きなので、 一曲を選び出すのは難しいけれども、とりあえず「la cura」にしておこう。

ジェノヴァ出身のファブリツィオ・デ・アンドレは、いわゆる「ワールド・ミュージック」の範疇で捉えられることも多いが、 やはり基本はギターの弾き語りなのだと思う。 フランスのシャンソンの影響を受け、当初は社会的下層民たちの生活を歌にしていたが、 後年は地中海トラッドへと向かい、さまざまな方言で歌を歌うようになった。 初期の歌も後期の歌もどれも、とても好きなのだが、 ここでは初期の名曲「via del campo」を挙げておこう。 残念ながら彼は1999年に亡くなってしまった。

最後に、ごく最近のものを少し。 ジョヴァノッティ「a te」とリガブーエ「il centro del mondo」が、なかなか気に入っている。 ジョヴァノッティはラップということで、これまではあまり聴いてなかったのだけど (実は、ぼくはラップにはあまり興味がなかったのだ)、 「a te」はとてもいいよ、とイタリア人の友人が薦めてくれたので、聴いてみると、 ジョヴァノッティに対するイメージがすごく変わった。 美しいメロディにのって、さりげなく情感を込めながら歌う彼の歌声がとても魅力的だ。 リガブーエは、いかにもな力強い骨太のロックを聴かせ、その手のものが好きな方にはたまらないと思う。

これらの歌は、いずれも美しいメロディを持っている。 結局、ぼくは自分の楽しみのために歌を聴いているだけなので、 ここで挙げた歌もまたそうしたぼく自身の好みから選ばれたものである。 だから、これらの歌を聴いてぜんぜん興味が沸かないという方もきっといるはずだ。 それでも、イタリア語の歌の世界は深く広いのだから、歌が好きでありさえすれば、 いつかきっと自分のお気に入りの歌に出会うことがあるだろう。


<参考>
※1回目の再生で途切れ途切れになる場合は、そのまま最後まで再生していただき、
  もう一度再生(もう一回観る)していただくと、途切れずに聞くことが出来たりします。

■Lucio Battisti - emozioni

■Franco Battiatto - la cura

■Fabrizio De Andr? - via del campo

■Giovanotti - a te

■Ligabue - il centro del mondo

イタリア音楽コラム
~ イタリア語の歌を聴いてみませんか? ~ 第5回
2008-08-13