古来アジア、アフリカ、ヨーロッパ三大陸が出会う文明の十字路として機能する地中海。ホモジェナスでありながら、多元的重層的相貌を呈する地中海世界。本書は、その基底にある古代地中海世界を、文献史料に親しくより添いながら、学際的視野から総合的に描き出す魅力的な歴史地理学の啓蒙書である。 プラトンは自分たちを「大地の小さな部分に住む池の畔の蟻や蛙のようなもの」と認識したが、ミクロコスモスとマクロコスモスの密接な関係は前6世紀の哲学者アナクシマンドロスによる最古の世界地図にすでに投影されていた。原ギリシア人やフェニキア人など航海術や造船術に長けた海のパイオニアたちの活躍も地中海空間の全体性認識に役立った。 しかし彼らの世界モデル構築に決定的役割を果たしたのは神話だった、と著者は考える。 大いなるパースペクティヴの基、変わらぬ自然と変わる環境を背景に人間たちが生きた交流の場として古代地中海全史を語る本書は、古代地中海世界の魅力と歴史地理学の面白さを同時に開示してくれる。 訳文も読みやすい。
《 東京海洋大学名誉教授 丹羽隆子 》
【紹介文の掲載概要】 掲載紙:「地図中心」 発 行:(財)日本地図センター 発行日:2007/3/10
【丹羽先生の近作】 『知れば知るほど ギリシア神話』 監 修:丹羽隆子(にわ たかこ) 価 格:1,575円 サイズ:単行本、256ページ 出版社: 実業之日本社 (2006/6/10) ISBN-13: 978-4408323114
2008-01-18