「時間を無駄にすることは〝衰退過程エントロピー〟だ」シスは微笑みながら、ラム酒のボトルに手を伸ばす。 わたしはコミュニティセンターの掲示板に貼り出された紙を囲む人だかりを見つめた。称賛すべきジャクソン同志はいつの間にかいなくなっていた。いかにも老獪なキツネだ。 「臆病者め!」とソレンセンは、人混みをかきわけながら、叫ぶ。 群衆は押し合いへし合いし、怒号が飛びかった。〝北の腕〟のアイルランド人たちは大笑いしながら、老人たちをけしかけ、どちらの側にも、肩入れして騒ぎを煽った。 わたしはジーナを探した。彼女はいなかった。騒ぎを見に降りてくることもなかった。そうだろうと思っていた。彼女にとって、こんなことはどうでもよいのだ。人生に関することで、芸術に関することではないからだ。 人生なんてクソ食らえだ。だが、芸術は違う。 わたしは微笑む。 ジーナはそう口にしたことはなかったが、心のなかでそう思っていたに違いない。そして実際、ジーナは正しかった。 「島の人間のことを理解しなくちゃいけないな。コピー機のトナーを買う金もないんだろう」わたしにラム酒のボトルを渡しながら、シスが言う。 ソレンセンはキリンのように首を反らせながら、前の方へ進み出た。 「追放だ!」だれかが叫ぶ声が聞こえた。「おれは追放された! クソったれ!」 「チクショウ!」と他のだれかが言った。「十年分払ったんだぞ! あいつらだって契約書に署名しただろ!」 わたしはシスをじっと見つめ、シスは群衆を見つめていた。ラム酒を飲みながら、うなずいていた。まるですべてが予想どおりに進んでいることに満足しているかのように。 彼は、事の展開を予測することに喜びを感じているようだった。それがよい結果であれ、悪い結果であれ。重要なのは、それを探し出すこと。鬼ごっこみたいに。ほら、いたぞ!見つけた! わたしは配給品のラム酒をもう一本くすねて、嵐のせいでまだ閉鎖されていた展望台でチェスを一局しようと持ちかけた。 シスは喜んだ。 「酔っぱらってチェスをするのはセックスするよりずっといい」とよく言っていた。 深夜になってようやく、群衆が一平方メートルあたり数人の、酔っ払って危なっかしい老人だけに減ったころ、わたしたちもついにその貼り紙を見ることができた。 施設の住民、三百九十四人のうち、二百二十九人が居住許可を取り消された。 リストにはソレンセン、シス、ジーナの名前があった。それにわたしの名前も。 名前の横には、当局の担当者とのペスコムによる面談予定時間が記されている。 わたしは明日の午後六時から六時半となっていた。 「もうおしまいだ」とわたしはシスに言った。 シスは微笑む。 彼はそれを予想していた。
Rinaldi Cremisi (続く)
訳:高野 由美(たかの ゆみ / Yumi Takano)