『紅の行列』(短編) ルイジ・リナルディ短編集より_『紅の行列』


くれないの行列』


日曜日、午後六時

 ビデオの向こう側で自己紹介したスタッフは、シンと名乗った。
 彼は革命家がよく着ている緑の作業服を着て、メガネをかけ、赤い星のついたベレー帽を被っていた。わたしの書類を入念にチェックする。
 わたしの抱えている問題について、専門的な分析をしながら「問題はビットコインの崩壊でした」と言う。「あなたは六十歳になった時点で、ユーロ建ての給付金を受給する資格がありました。この給付金は一般的な年金とされ、五年間にわたって分割して受け取ることができたのです。あなたの国の他の多くの年金受給者と同じように、あなたは自分の資産をビットコインに換金することを選びました。ここ、タークス・カイコス民主主義人民共和国では、そのビットコインは税金を差し引いても十八年分に相当する額になっていたのです」
 彼の話し方は人を惹きつけるものがある。それはホワイトノイズを聞いているような感じだった。
 「残念ながら」と彼は続ける。「最近の金融危機でビットコインが暴落し、あなたの資産はなくなってしまったのです。つまり、あなたにはお金がなく、わたしたちにはどうすることもできないのです。あなたは、移民許可を取り消され、わたしたちはあなたを連邦に送還しなければならならないのです」
 わたしは彼を挑発してみた。それで事態が良くなるわけではなかったが。
 「あそこに行ったら、わたしがどんな目に遭うか、よくわかっているはずだろう? あんたはいったいどんな共産主義者なんだ?」
 シンはまったく動じない。
 「それはあなた方の法律であって、わたしたちには関係はありません。それに、わたしはあなたの経歴をよく調べてみました」
 わたしは思わずニヤリと笑った。これほど滑稽なことはない。何度、自分の経歴について、あれこれ言われてきたことか。
 「あなたは七十一歳。イタリア文学の学位を持っている。教師だったが、〝変革〟の後、あなたの教え方は時代遅れで非効率だと見なされるようになった。作業員、コック、タクシー運転手、夜間警備員として再教育を受けました。国の法律に従い、あなたは六十歳で引退しましたが、一定の基準に達しなかったため、あなたの財産と不動産は、名義移転法により、あなたの娘のものになりました」
 「それでもまだ不足があるのか?」わたしは皮肉を込めて言った。だが穏やかに。彼は首を振った。
 「タークス・カイコスでは、あなたをどのように活用すればいいのか、わからないのです。それに、わたしに恨みごと言うまえに、聞いてほしいのですが、わたしたちはあなたがたを温かく迎え入れてきました」彼は別の青いファイルを開く。「欧州の連邦は即時に回答してきました。あなたに提供できるものは何もないそうです。あなたをレッド市民とみなしているようです」
 「そんなことだろうと思っていたよ」
 彼はため息をつき、メガネを外して指を組んだ。
 「あなたのご家族は、最低でも一年間、ここでのあなたの生活費を支払ってくれますか?」
 クレアとオーラを思い浮かべた。一方通行でも、愛は愛なのだ。ふたりは〝変革〟のまえに生まれた。
 「いいや」
 シンはベレー帽を脱いで額を掻いた。
 「それに、あなたは年を取りすぎていますから、身体の重要でない部分を売ることもできないでしょう。さらに、たとえ特例でそれが認められたとしても、臓器の相場はインフレで価格が下がっていますから、半年分の生活費すらまかなえないでしょう」
 シンはメガネをかけ直し、真剣な顔でビデオの向こう側からわたしを見つめる。
 「つまり、あなたに残された道はひとつしかありません。世界各地にある反改革団体に手紙を書くことです。彼らとの連帯に望みを託すのです。彼らのメールアドレスを教えましょう」
 「もういいんだ、同志」わたしはシスが言った言葉を繰り返した。「おれの時代はもう終わったんだ。今も、これからもだ。やつらが勝った。そして、おれは潔く負けた」
 シンはうなずいた。
 シンは、あらゆる解決策を冷静に検討することができたし、ともかく自分の職務を果たせたことに満足している。
 「わかりました。ご存じでしょうが、あなたへの通告は正式なもので、法的効力を持っています」あなたは連邦の費用負担で、即座に送還されることになります。これは二国間の移民協定に基づく、正当な措置となります」
 わたしは立ち上がった。
 「覚えておいてほしい、時には死もまた勝利なんだってことをな。あんたがこの世を去るときに、あんたの人生は十分、意義があったと満足できて、それに安らぎを見いだせることを願ってるよ」とわたしは最後に言った。
 そして、ビデオをオフにした。
 わたしは外に出た。


Rinaldi Cremisi
(続く)

訳:高野 由美(たかの ゆみ / Yumi Takano)