テルミニ駅の巨大な地下駐車場に車を置き、僕たちは、快適なオートスロープを歩いて、出口へと向かった。 けれど、クラウディアは、まるで心ここにあらずのようだった。二人とも無言で、ロマンティックでも何でもない、単に気まずい雰囲気で数分歩いた後、ヴィットーリオ広場にある、ローマで最も優秀なジェラート店の一つ「ムッソリーニの語部(かたりべ)」に着いた。 店内も外のテーブルも既に満席だったが、ウェイターがこっちを見て、ちょっとだけ待つよう、めくばせし、厚かましいイギリス人観光客を追い払って、僕たちのために外のいい席を用意した。それから、金色の紙に書かれたメニューを持ってきた。クラウディアは、どれでもいいといったふうに、選ぶ意志が皆無だったので、僕はティラミスを二つ注文した。 心配になって、僕はクラウディアを見つめた。彼女は、玄関を出てから一度も笑顔を見せていなかった。全然、打ち解けていなかった。 「ちょっと変だよ、クラウディア」と思い切って言った。「わけを聞かせてもらえる?」 彼女は、視線を落とし、無気力にティラミスのスプーンをくわえ、首をかしげた。それから、眼を上げ、僕を見据えるようなまなざしをした。僕は、彼女がほんの一瞬だけ何かを、おそらく自分の態度の理由を、打ち明けようかという気になったのがわかった。 けれど、彼女は「体調が悪いせいね。家まで送ってくれる?」とだけ言った。 かわいそうになるくらい、彼女は元気がなかった。 「いいよ」と、僕は落胆を見せまいとして答えた。 帰り道、彼女はひと言も喋らなかった。君主と護衛隊を通過させるために、信号で、ゆうに十分間は停まっていた時ですら。 彼女は、屋敷の入り口で僕に挨拶し、どう解釈していいのかわからないまなざしで僕を見つめた後、僕を帰した。 (続く)
訳:橋本清美(はしもと きよみ / Kiyomi Hashimoto)