雨ばかり降る寒い二週間を、僕は家に閉じこもって過ごした。空の陰うつな灰色が、僕の部屋に入り込み、あらゆるものを犯すのを眺めていることしか僕にはできなかった。色彩が、ツバメや希望や幸福への期待と同じように、突如として消え失せていった。 現実との唯一の接触は、父がファシスト党員の友人と電話で話すのを立ち聞きすることだった。あの夜、その友人を介した国防省警察への通報によって、極秘捜査が綿密に行われることになった。捜査は極めて速やかに進められた。 考えないようにした。忘れるよう努めた。自分の内奥に、その無意志の中に、その墓場のような穏やかさの中に、僕は逃げ込んだ。 言うまでもなく、彼女とは、それきり会うことも連絡をとることもなかった。事実、あの夜以来、彼女からも二度と電話はかかってこなかった。彼女には、僕が裏切るのがわかっていた。だからこそ、自分の秘密を明かした。後で考えて、初めて、それがわかった。 けれど、或る夜、夢を見た。 僕は、まだキャンプ場にいて、大人だけれど、バリッラ少年団員でもあった。二チームに分かれて、水風船合戦をしていた。 司令官は、夢の中では、クラウディアの顔をしていた。試合をやめさせ、激怒したが、それは僕にだけだった。僕が禁じられた言葉を口にして神聖な制服を汚したと、僕の罪は最もさげすまれるべき罪だと、そう言った。それから、革ベルトの鞭で僕を叩き始めた。 鞭で打たれながら、僕は彼女に訊いた。「どうして? どの言葉が?」 「知ってるでしょう?」あの青くすさまじい瞳で僕を凝視して、そう訊き返し、僕を鞭で叩き続けた。「言って!」 唇がその言葉を放ち、はっと覚醒した僕は錯乱していた。その時、せきを切ったように僕は泣いた。もう永遠に得られない許しをクラウディアに乞いながら、朝まで泣き続けた。 なぜなら、僕が、最低の裏切り者、自分の良心に背いた奴だったから。愛に反逆した奴だったから。 なぜなら、僕の唇が覚えている唯一の一語(ひとこと)が、その言葉だったから。
Parole Ptoibite (おわり)
訳:橋本清美(はしもと きよみ / Kiyomi Hashimoto)