青いバスは、最後のカーブを曲がり、学校のグラウンドへの直線に入る。ギアを変え、クラクションを鳴らして到着を告げる。 両側に兵士たち、そして、その警備網の後ろには、喚声をあげて到着を迎える人たちがいる。実のところ、多くはない。仕事を放りだせる人はわずかだ。あまりにも多くの人が土曜日も働いているし、皆が皆、生徒たちの運命を気にしているわけではない。 最も強情で、最も執拗な(トニーは最近この言葉を覚えた)親たちだけが、ここにいる。地区の渋滞を引き起こしつつ、バスの先回りをし、互いに慰め合いながら待っていた親たちだ。 学校の先生たちが言うには、執拗な親は弱者で、弱者は追いやられる。それは自然淘汰によるものだと言う。自然淘汰は、「変革」の合目的性のうえに成り立つ。トニーにはまったく理解不能のイデオロギー的なものだ。 けれど、試験が終わるまで励まし、勇気づけてくれる親を持つ生徒のことが、ほんの少し、どこか、うらやましくは思う。 「お父さんだ!」と、後ろで誰かが叫んだ。「お父さん!」 トニーは、ぼんやりしながら、曇ったガラスにスマイルを書いた。サラを思って、無謀にも、ふたりのイニシアルをハートで囲んだ(すぐに消した)。 やけに腹の出っ張った、赤紫色した顔の四十代の男が、バスの窓に向かって、至近距離で手を叩いている。すぐに兵士たちに乱暴に連れていかれた。 「お父さん! お父さん!」と、下級生の少女がわめき散らす。 ジーノが、窓際へぐいぐい体を伸ばしてきて、ほとんどトニーの上に寝そべるかたちで、頭のおかしい奴みたいに笑いながら、親たちの喚声に応える。にきびとほくろとそばかすだらけの顔で、いかれた奴みたいに笑っている。 バスがついに停車する。トニーはようやく立ち上がって振り向くことができる。 彼女がいる。 サラは、たとえようもなく美しい。何かに思いを馳せているような、遠くを見るようなまなざし。薄いくちびる。欠点のない、卵型の、東洋人の顔立ち。彼は胸がきゅっとなる。一瞬、彼女と目が合ったが、すぐにそらす。どうやらこっちに気づいたみたいだ。数週間前、挨拶を交わした記憶がよみがえる。挨拶してくれたように見えた、が正しいが。 サラは、なぜ、とても特別な少女なのか。 サラは聾唖ろうあ者だ。 これが彼女の弱点。バスに乗せられた理由。 みんなと一緒に。 (続く)
訳:橋本清美(はしもと きよみ / Kiyomi Hashimoto)