トニーの口の中で、またカフェ・ラッテの味がして、どうしてだか、自分の行いへの仕返しのように、朝の光景、非難のこもったまなざしを向けてきたジーノの母親が、フラッシュバックのようによみがえる。そして、自分が悪いんだと感じる。 『俺たちだけ』 運転手がドアを開ける間、知らない少年が、またヴァスコの歌をうたう。 トニーは、最後の二段を抜かして飛び降り、アスファルトを蹴りつけながら伸びをする。 寒くて、足が凍える。 そして、振り返って、待つ。 ついに、夢に見る少女が降りてくる。トニーは、彼女がピンク色のマフラーを巻いているのに気づく。白い息を吐いて、今日一日の重さを量るかのように周りを見回している。それから、見上げる。トニーは、その視線を追う。空には、たった今、飛行機が残した白い線が引かれている。 あそこから下界を観察してみたらどんな感じだろう、とトニーは思う。 それから、彼女に視線を戻す。彼女が、他の生徒たちに追いついて、皆に混じり、その、ほっそりとした手足に、少女に似合わぬ豊かな胸をもつ体で、悠然と歩くのを見る。女性の胸。後を追いたいけれど、ためらう。背の高い誰か、金髪のハンサムな少年と、彼女が身ぶり手ぶりで話しているのが見える。少年は、返事をするように、彼女に微笑みを返している。名前は覚えていないが、四年生だ。心臓を刺されたみたいに嫉妬を感じる。 よく知っている痛み、敗北の痛み。 ベルが鳴る。 兵士たちが指示する。 凍りつくようなアスファルトにもかかわらず座り込んでいた数人の生徒が、立ち上がる。 中に入る時間だ。 またベルが鳴る。忌まわしい音。 死のように。 (続く)
訳:橋本清美(はしもと きよみ / Kiyomi Hashimoto)