トニーは、周囲を見回す。 学校の外では騒ぎが起こっている。 親たちの一団が、泣きわめいて、青いバスに近寄ろうとする。兵士たちが、警棒を振るって阻止する。 トニーは、それを見ている。あれが自分たちの、運命ってやつ。自分にも起こり得た、でも自分には起こらなかった、運命。 許されるぎりぎりの地点までバスに近づく。混乱と殴打と叫び声の中にあっても、彼女を見る。 窓際に座っている。車内の他の生徒たちの誰もが、わめき、泣き、取り乱しているのに、彼女は穏やかだ。 彼に気がつく。 その瞬間、すべてが静まるように思われた。 彼と彼女。他は存在しない。 「ごめん」と、小さな声で彼女に言う。実際に彼女に聞こえているかのように。 少女が、また微笑みを向ける。そのまなざしは、わかったと告げているように見える。 僕より先に行くだけだと。どこへだろうと、僕がすぐに追って行くから、そこで待てばいいんだと。 けれど、トニーには、一語ひとことしか言えない。 「ごめん」 人生でたった一度のチャンス、手にし得た、たった一つの勝利を逃したのがわかったから。尊厳さをもって彼女と共に死ぬということ。
Prova di Recupero (おわり)
訳:橋本清美(はしもと きよみ / Kiyomi Hashimoto)