前々回のコラム「04.イタリアの夏とPOPS」で書いたように、イタリア社会の風習が日本のものと異なることもあり、音楽業界においても、両国間での相違点が多々見受けられます。 今回のコラムではその相違点のうち、イタリアPOPS作品の新譜が発売される次期が集中する時期と閑散する時期がはっきりしている点をご紹介いたします。 結論から申し上げますと、イタリアPOPSの新譜発売が集中する時期は、2月~6月(特に2月~5月 / 春の新作ラッシュ)と、10月~12月(特に10月~11月 / 秋の新作ラッシュ)となります。 さて、まずは春の新作ラッシュシーズンが2月から始まるのは、近年のサンレモ音楽祭が2月中旬に開催されるからに他なりません。 サンレモ音楽祭(Festival della Canzone Italiana di Sanremo / サンレモ市主催イタリア歌の祭典)は、1951年の第1回開催以来、幾多の困難を乗り越えて毎年欠かすことなく開催され続け、2011年で第61回を迎えた奇跡的な長寿を誇る世界的に有名な音楽祭です。 『未発表の歌』の善し悪しで優勝を争うという基本コンセプトを一環として続けているため、出場歌手はもちろん、参加曲の提供者(作詞家・作曲家)なども、サンレモ音楽祭開催前にレコードやCDで発売する事が許されていないのです。 (規則違反がサンレモ会期中に見つかって、失格になった歌手や作品も多数あります) したがって、サンレモ音楽祭出場者はもちろんのこと、出場しない歌手たちの作品までもが、サンレモ作品の発売解禁日(例年はサンレモ会期中の最終日前日の金曜日)に一斉に発売されることが多いのです。 その後は、意図的にサンレモ作品群の発売ラッシュ時期を避けて、3月~5月ぐらいに発売される作品が後に続きます。 そして前出のコラムにある通り、8月はCD工場自体が休暇に入ってしまうため、できるだけ夏前に市場に流通されるようにと、6月一杯を目途に発売準備を進める風潮があります。 また、予定通り進まない事が多いイタリア社会ですので、計画が遅れて6月中の発売が難しい状況になって来た作品は、9月以降の発売に繰り下げられることも多いようです。 さて、8月の長い夏休みが終わっても、すぐに新作音源がディスク化されて市場流通が始まる訳ではありません。9月発売になる作品のほとんどは夏前の発売計画がずれ込んだ作品が主になるため、タイトル数は多くありません。 多くの作品は10月から11月にかけて、いわゆる『秋の新作ラッシュ』の時期に集中して発売となります。 さらに11月中旬ぐらいから12月中旬にかけて、今度はクリスマスギフト向けの企画ものやデラックスなセットものが発売になります。豪華な装丁と複数枚ディスクのベストアルバム、春に発売したアルバムにDVDを付加したデラックスエディション、春夏のツアーを収録したライヴ盤やDVDなどなど・・・ そしてクリスマスシーズンに突入すると、カトリック総本山のお膝元のイタリアでは、年間で一番大事な祝い事ですから、12月24日のクリスマスイヴ、12月25日のクリスマス当日でクリスマスモードは終わりません。翌12月26日にも聖Stefanoの祝日と祝い事が続き、多くのイタリア人はこの時期は最低一週間程度の休暇を取るのが通例です。 イタリアのクリスマスモードが終わるのは、年が明けた1月6日のEpifania(エピファニア/御公現の祝日)。この1月6日がイタリア社会では、クリスマス飾りを仕舞う日に充てられる訳です。このEpifaniaとは、キリストの生誕を知った東方の3博士がキリスト礼拝にやって来た、キリスト生誕後12日目にあたる日になることからこの風習が始まったようです。 つまり12月中旬ぐらいから1月前半ぐらいまでの約1ヶ月弱ぐらいは、再び作品のリリースが滞りがちなシーズンとなります。 そして、再び2月のサンレモ音楽祭シーズン・・・と、イタリアPOPS業界の1年が繰り返されることとなります。 例:以下の年間ヒットチャートで、ほとんどのアルバムの発売時期が上記の時期に一致しているのが、確認できるかと思います。 2010年 イタリア・年間ヒットチャート Wind Music Awards 2011 上記の2つのヒットチャートの首位に輝いたLigabue(リガブエ)のアルバム「Arrivederci, mostro!(アバヨ、怪物!)」は、2010年5月11日(=春の新作ラッシュ時期)に発売され、2010年の年間最多アルバムセールスを記録し、2011年上半期にかけてもベストセラーアルバムに輝くという、ロングラン大ヒットを記録しました。 このLigabueが2011年6月16日に開催した大規模な野外ライヴ『Campovolo 2.0』からのひとこまの映像をご紹介しましょう。 なお、同ライヴイベントは、2011年12月(=いわゆるクリスマス商戦期)に映像作品としてリリースされることが発表され、早くも大きな話題となっています。 以上のように今回のコラムでは、イタリアPOPS作品時期には特徴的な偏りがあることを解説いたしましたが、ここ数年は、物理的なCDプレス、ジャケット印刷、物流・流通が不必要なダウンロード販売が台頭してきていますので、従来の発売シーズンに縛られないリリース作品も現れ始めていることを追記しておきます。 Piccola RADIO-ITALIA YoshioAntonio こと 磐佐良雄 ***** 今回ご紹介した曲の収録アルバム ***** アルバム:Arrivederci, mostro!(あばよ、怪物!) アーティスト:Ligabue(リガブエ) ***** 『第77回 イタリアPOPSフェスタ』開催のお知らせ(予定の内容) ***** 1. 来日直前!Ludovico Einaudi、イタリアンプログレッシヴ・ロックフェスティヴァル特集 2. イタリアで最近リリースされた話題作から 3. 白熱のライブ映像 日時:2011年10月8日(土) 17:15~21:30 (16:45開場) 会場:東京・JR亀戸駅 徒歩2分 定員:先着20名様 参加費:無料 ※お申込み&詳細は以下のサイトまで。 http://piccola-radio-italia.com/ 参加者層は、イタリアPOPS初心者からヘビーリスナーまで、大学生から60歳過ぎの方まで、幅広い方々が集まります。初心者やお一人様でのご参加、大歓迎です!
”きいてみ~よ!” ~ イタリアPOPSのススメ ~ 第6回 2011-09-23