今回のコラムでは、イタリアのPOPSシーンには、日本とは異なる様相となっていることをご紹介いたしましょう。 相違点その1:TOPスターは40代以上 最も日本と異なる事情はこの点でしょう。イタリアのヒットチャートを席巻し、絶大なライブの観客動員数を誇るのは、若くても40代のアーティストで、その中心層は50代から60代となっている点です。 つまり多くのアーティストが1970年代から80年代にかけてシーンに登場したアーティストたちが、そのままずっとイタリアのミュージックシーンを牽引して来ているのです。 【2010年の年間アルバムチャート】 1位:Ligabue(リガブエ51歳)/「Arrivederci, mostro!(アバヨ、怪物!)」 3位:Biagio Antonacci(ビアジォ・アントナッチ/48歳)/「Inaspettata (予想外な)」 6位:Zucchero(ズッケロ/56歳)/「Chocabeck」 9位:Vasco Rossi(ヴァスコ・ロッスィ/59歳)/「Tracks 2 [inediti & rarità](トラックス2[未発表曲とレアもの]」 Biagio Antonacci/ "Se fosse per Sempre (もし永遠なら)" 相違点その2:カンタウトーレ(シンガーソングライター)中心 1960年代の後半にLucio Battisti(ルチォ・バッティスティ)が登場し、自ら曲を書き・歌うカンタウトーレの存在を強力にアピールして以来、1970年代には空前のカンタウトーレブームが到来。以降現在まで続くカンタウトーレが音楽業界そのものを牽引したまま現在に至っています。 Lucio Battistiについては、本コラムの『02.時代を切り開いた人物たち』をご参照ください。 相違点1で挙げた年間アルバムベスト10に入ったベテランアーティストが全てカンタウトーレであることからも一目瞭然です。 また、こうしてアーティストとして自立できるのが中年以降となることが多いため、Topスターに君臨するのは、男性カンタウトーレ主体の顔ぶれとなることも否めません。 相違点その3:30歳ぐらいまでは新人扱い TOPスターとなれるのが通常40代以上となるため、多くのアーティスト達は30歳ぐらいまでは下積みを重ね、30歳ぐらいからようやくソロデビューを果たす、というのが昨今のイタリアPOPS界の通例です。 長い歴史と実績を誇るサンレモ音楽祭は、1980年代に新人部門を設けるようになりましたが、日本のイメージで考えらる『新人』とは大きくかけ離れた年齢層のアーティスト達も多く出場してきました。20代後半から30代が主力層で、中には60代で新人部門に出場した歌手も存在しました。 ※2012年のサンレモ音楽祭の新人部門の対象年齢規定は、14歳~29歳 相違点その4:若年層主体に人気のアーティストはセールスに繋がらない もちろんイタリアにも日本と同様、若年層に大きな人気を持つアーティストやバンドも存在しますが、ファン層が若年層主体のままでは、大きなセールスに繋がらず、マスメディアにも登場するチャンスも少なく、イタリア全国区の人気やセールスに結び付けることができず、当然アルバムチャートにも登りません。ローカルレベルで活動するといった、いわばインディーズレベルの人気のままの状態を余儀なくされています。 相違点その5:新人発掘タレントショーの存在 そしてこの10年ほどで、イタリアのPOPSシーンに大きな革命をもたらしたのが、新人発掘タレントショー番組の台頭です。 最も歴史的に長いのは、2001年にTV番組『Saranno famosi(彼らは有名になるでしょう)』として始まった『Amici(ともだち)』です。 かつて日本で放映されていたTV番組『スター誕生』などと異なり、約3ヶ月間に渡って、歌手、カンタウトーレ、ダンサー、役者などの部門の応募者が競い合い、励まし合って行く姿がそのままTV放映され、最終的に順位を競うというタレントショー番組。 10代から20代の若い男女が多く出演していますが、そこはイタリア。日本のタレントオーディションとは異なり、完全に実力を主体に評価されるため、例えば歌手部門では、若年層とはいえ、既に目を見張る歌唱力を持っている出場者ばかり。日本のようなルックス先行で歌手にしてもらえるような世界ではありません。 また、3ヶ月間に渡って毎週放映されることにより、その番組で勝ち進んでいくと、新人ながら既に知名度は全国区というスターが誕生するという構図で、ファイナリストたちはCDをリリースするとヒットチャートでも上位に食い込むという、それまで長らくベテラン男性カンタウトーレの独断場だったイタリアPOPS市場の中で無視できない存在となってきたのです。 サンレモ音楽祭では、2009年と2010年の2年に渡って、Amici出身の歌手が総合優勝を勝ち取るという前代未聞の事態が発生するという異変まで起きました。これは新人まがいのアーティストたちが、伝統と格式を誇るサンレモ音楽祭を征服した構図にもなるので、大きな物議を醸すこととなりました。 また、この『Amici』人気を追うように『X Factor(イクス・ファクトル)』、『Star Academy(スター・アカデミー)』などのタレントショー番組も立ち上がって来ています。 【2010年の年間アルバムチャート】 2位:Emma(エンマ/27歳/Amici出身)/「Oltre(もっと先へ)」 4位:Pierdavide Carone(ピエールダヴィデ・カローネ/23歳/Amici出身)/「Una canzone pop」 5位:Alessandra Amoroso (アレッサンドラ・アモローゾ/25歳/Amici出身)「Il mondo in un secondo(一秒の世界)」 8位:Marco Mengoni(マルコ・メンゴーニ/23歳/X Factor出身)/「Rematto(再び常軌を逸する)」 Alessandra Amoroso / "E' Vero Che Vuoi Restare(あなたが残りたいのは本当のこと)" こうして、一時期は1970年代にデビューしたカンタウトーレ達がそのまま市場を牽引し続ける状態が長く続き、若年層のアーティストや経験を積んだ女性歌手が不足することが危ぶまれたイタリアPOOPS界でしたが、このTVタレントショー番組の人気で多くの若手歌手が登場し、やっと少しバランスが取れて来たといえるのが最近のイタリアPOPS界です。 しかしまだそこには、手放しで安心できない要素もいくつかあります。TOPスターたちの多くが60歳を超え、さすがにやや落ち着いた活動となってきたこと、TVタレントショー番組出身の歌手たちや、番組自体の人気が今後も継続するのかが不透明なこと、中間層の30代~40代に次世代を担う格のアーティストが不足している傾向などなど。 なお、上記は一般的な傾向で合って、もちろん例外もあります。オーデション番組に未出場ながら20代のうちにTOPスターに上り詰めたアーティストもいますし、曲を書かないアーティストのままTOPスターの座をキープしている大歌手もいます。 Piccola RADIO-ITALIA YoshioAntonio こと 磐佐良雄 ***** 今回ご紹介したアルバム ***** アルバム:Arrivederci, mostro!(あばよ、怪物!) アーティスト:Ligabue(リガブエ) アルバム: Inaspettata (予想外な) アーティスト:Biagio Antonacci(ビアジォ・アントナッチ) アルバム: Chocabeck アーティスト:Zucchero(ズッケロ) アルバム: Tracks 2 [inediti & rarità](トラックス2[未発表曲とレアもの]) アーティスト:Vasco Rossi(ヴァスコ・ロッスィ) アルバム: Oltre(もっと先へ) アーティスト:Emma(エンマ) アルバム: Una canzone pop アーティスト:Pierdavide Carone(ピエールダヴィデ・カローネ)/ アルバム:Il mondo in un secondo(一秒の世界) アーティスト:Alessandra Amoroso (アレッサンドラ・アモローゾ) アルバム: アーティスト:Marco Mengoni(マルコ・メンゴーニ)/ ***** 『第80回 イタリアPOPSフェスタ』開催のお知らせ(予定の内容) ***** ★イタリアで最近リリースされた話題作から 日時:2012年1月14日(土) 17:15~21:30 (16:45開場) 会場:東京・JR亀戸駅 徒歩2分 定員:先着20名様 参加費:無料 ※お申込み&詳細は以下のサイトまで。 http://piccola-radio-italia.com/ 参加者層は、イタリアPOPS初心者からヘビーリスナーまで、大学生から60歳過ぎの方まで、幅広い方々が集まります。初心者やお一人様でのご参加、大歓迎です!
”きいてみ~よ!” ~ イタリアPOPSのススメ ~ 第10回 2012-01-03