今回から装いも新たに、連載音楽コラム「記憶の中のカンツォーネ」が始まります。 テレビやラジオ、もしくはそれ以外のどこかから、なんとなく流れてきて、 私たちがなんとなく耳にしたことがあるかもしれないイタリアの歌を、 毎回一曲取り上げて、何かしらご紹介してみよう、という企画です。 第一回目は、こちらです。 2002年頃にテレビで流れていたトヨタのコンパクトカー・ヴィッツ(Vitz)のコマーシャルです。 ついこのあいだのような気もするのですが、放映されていたのはもう6年も前のことになるのですね。 出だしのリフがとても印象的なので憶えている方もきっと多いでしょうし、 ちょっと耳にすれば「ああ、これか」と思い出すでしょう。 当時ぼくは、Vitz(正しくはWitz)って元はドイツ語なのに、 なぜイタリア語の歌を使ったのだろうと心の中でツッコミながら眺めていた記憶があります。 おそらく、ヨーロッパ的なイメージをかもし出すためにこの歌を採用したのでしょう。 これは「雨」(La pioggia)という曲で、歌っているのはジリオラ・チンクエッティ(Gigliola Cinquetti)。 彼女は1947年イタリア北東部のヴェローナ生まれ。 前コラムでも何度か取り上げたことがありますので、憶えている方もいらっしゃるでしょう。 彼女の代表曲「夢見る想い」(Non ho l'eta')は非常に人気がありますが、 この「雨」も、負けず劣らずによく知られた歌です。 この歌は、1969年のサンレモ音楽祭入賞曲で、そのときはすでにチンクエッティは人気歌手で、 日本でも「雨」のシングルレコードが発売され大ヒットしました。 何年か前になりますか、彼女が主演した映画『愛は限りなく』(Dio Come Ti Amo, 1966年)がテレビで放映されていて観た覚えがあります。 劇中で彼女の歌をたっぷりと聴くことができ、いかにも昔のアイドル映画といった感じでとても微笑ましいものでした。 当時、日本でも公開されていたようで、ジリオラ・チンクエッティの人気がうかがえます。 きっとぼくよりも少し上の世代にとっては、えも言われぬアイドルだったのでしょう。 さて、CMで歌われている部分の歌詞はこんな感じです。 il termometro va giu' il sole se ne va l'inverno fa paura a tutti ma c'e' un fuoco dentro me che non si spegnera' lo sai perche' io non cambio mai non, non cambio mai… 温度計が下がる 太陽は去った 冬があらゆる人を怖がらせる でも私の中には火がある 消えることのない火が その訳はあなたが知っている 私は変わらない 決して変わらない… 冬の到来と、胸を焦がす熱い愛とを実にうまく対比させて、なかなか気の利いた愛の歌詞になっていると思います。 これは後半部の歌詞で、前半では、天候がどんどん悪くなっていく状況を逐一描きながらも、 「でも、そんなの私には大したことじゃない」と言い切っている様は面白いです。 歌詞の最後は「いお~、のん、かんびおま~い」と、曲のサビの部分になっています。 気候が変わろうが、世界がどうなろうが、私の愛は変わらずに燃え続けているのだから、と高らかに歌い上げています。 全曲はこちらで聴けます。 CM向きの曲とはどういうものかは分かりませんが、やはり一回聴いただけでも耳に残るような曲が望ましいのではないかと思います。 その点では、この曲は合格なのではないでしょうか。 ちなみに、この曲のフランス語カヴァーを歌っているのは、 「夢見るシャンソン人形」(Poupee de cire, poupee de son)で一躍人気歌手となった フランス・ギャルが歌っています。 聴き比べてみるのも面白いでしょう。 また、ジリオラ・チンクエッティ自身もフランス語で歌っています。 さて、現在までに、どれほどイタリアの歌が日本のお茶の間に流れていたのかは分かりませんが、 こんな感じでこれから一年間、そうしたカンツォーネをなんとか探し出して、ご紹介してみたいと思います。 みなさんもご一緒に、記憶の片隅にこっそりと佇んでいるかもしれないイタリアを探してみましょう!!
イタリア音楽コラム ~ 記憶の中のカンツォーネ ~ 第1回 2009-04-16