時代の流れはすさまじいもので、いつのまにやらパソコンなるものは、私たちの生活になくてはならないものになっているようです。 少なくともぼくはそうです。今ではパソコンとインターネットがないともう仕事になりません。 このコラムを書くのもパソコンを使っていますし、そもそもこのコラムを読むのにもパソコンが必要なわけですし。 でも、パソコンが私たちの生活の中に入り込んできたのは、おそらく、この二十年くらいのことでしょうか。 最近はあまり見なくなったような気がしますが、パソコンのテレビCMも以前はよく目にしていました。 各メーカーが競っていろいろなテレビCMを作っていましたし、マスコットキャラクターもいろいろとありました。 例えば、NECだと、「バザールでござーる」でしたが(これは今も現役らしい)、 あるメーカーでは奇妙なおじさんのキャラクターが使われていて、一連のCMシリーズが放送されていました。 人気があったようではありますが、個人的にはあまり好きじゃなかったので、逆に記憶によく残っています。 これは富士通のパソコンを宣伝していたキャラクター。 名前は〈タッチおじさん〉というそうです。 正確な放映年代はわかりませんが、おそらくwindows95が出た頃じゃないかと思います。 公式サイトが2001年まで存在していたらしいので、おそらくはこのおじさん、数年間は頑張って宣伝していたのだと思われます。 もちろんおじさんが歌っている歌詞はでたらめです。 CMではおじさんの声にほとんどかき消されてしまっていますが、元歌はこちらで聴けます。 この歌は「Go-Kart Twist」(ゴーカート・ツィスト)で、ジャンニ・モランディが歌っています。 モランディは1962年にこの歌でデビューしました。 それから40年以上も経った今日でも、彼は大御所シンガーとして第一線で活躍しています。 先日、イタリアのアブルッツォ州で起きた地震の被災者たちの支援プロジェクトとして、 たくさんのミュージシャンが参加して、チャリティソング「domani 21-04-09」(明日2009.4/21)が録音されました。 モランディもその中で一節歌っています。 さて、「ゴーカート・ツィスト」は、カトリーヌ・スパーク主演の青春映画『太陽の下の18歳』(diciottenni al sole, 1962年)の主題歌で、 「サンライト・ツィスト」の邦題で日本でも大ヒットしました。 作曲したのはエンニオ・モリコーネです。歌詞はこんな感じ。 E gira e gira e vai E non fermarti mai E gira e gira e vai E non fermarti mai 回れ、回れ、行け 決して止まらないで 回れ、回れ、行け 決して止まらないで Mettiti il casco e salta sul go-kart E vai e vai col go go go-kart E ballerai il twist del go-kart Twist go-kart and twist go-kart ヘルメットをかぶって、ゴーカートに乗る ゴーカートでどんどんと行け ゴーカートのツィストを踊って ツィスト ゴーカート ツィスト ゴーカート ……なんとも勢いのある歌詞ですね。ノリノリです。この後もゴーカートはどんどん突っ走っていきます。 歌詞は「アクセルを踏め」とか、「ブレーキをかけるな」とか、暴走をさんざん煽って、ゴーカートはますますスピードを増していくようです。 そして、ツィスト、ツィスト!! いかにも青春映画の歌らしく、時間がない、止められない、青春真っ盛りの様子が目に浮かんできます。こういうの、大好きです。 そんな歌を、妙ちくりんなおじさんが、適当な歌詞をつけてツィストしながら歌っているのは、インパクトがあって、意表を突かれてしまいました。 もしかすると、意外と練りに練られた選曲なのかもしれません。 ツイストを踊るカトリーヌ・スパークはとても素敵ですが、 いいかげんな歌詞を叫びながらツイストを踊るノリノリの〈タッチおじさん〉もなかなかオツなものです、なんてことはまったくありませんが。
イタリア音楽コラム ~ 記憶の中のカンツォーネ ~ 第3回 2009-06-16