~ イタリア語の歌を聴いてみませんか? ~ 06.Modena City Ramblers / ~ ロック・イタリアーノの軌跡 ~ 第6回


06.Modena City Ramblers / ~ ロック・イタリアーノの軌跡 ~ 第6回
《L'amante della musica》

イタリアのポップミュージックの運動のひとつに、「コンバット・フォーク」(combat folk)というものがあります。名前から連想されるように、これはThe Clashのアルバム『Combat Rock』のタイトルをもじったものです。combatなどと言うと何やら穏やかではない印象を受けますが、とりあえずは、コンバット・フォークは、60、70年代の体制批判や政治色の強いフォーク音楽の潮流を受け継いだ音楽運動であるととらえることができます。

今回取り上げるのは、このコンバット・フォークを提唱したフォークロック・バンドであるModena City Ramblersです。アイルランドのトラッドやフォーク音楽を演奏するバンドとして1991年に結成。1993年にはデモテープを制作し、その翌年に最初のアルバムである『Riportando tutto a casa』を発表します。実は、デモテープのタイトルが『Combat Folk』であり、ここから音楽運動としてのコンバット・フォークが始まることになります。

アコースティック&エレクトリック・ギター、ベース、バンジョー、バイオリン、フルート、アコーディオン、グロッケンシュピール、マンドリン、ハーモニカ等々、さまざまな楽器を使って奏でられる彼らの音楽は、とても聴き応えがあります。またオリジナル曲だけではなく、「Ciao Bella」や「Fischia il vento」(「カチューシャ」の替え歌)といったパルチザンの曲を現代に蘇らせたことも彼らの功績のひとつでしょう。

■Quarant'anni


「40歳」と題されたこの曲は、デモテープにもデビューアルバムにも収録されている代表曲のひとつです。その歌詞の一部をざっと見てみますと……

俺は40歳、あまりに多くの戦争で体にはガタがきている
忘れることができるなんて、心底うんざりだ
俺は経験した、テロリズム、赤い大虐殺、黒い大虐殺を
破裂する飛行機、列車の爆発を
俺は見た、闘士たちが生中継で笑うのを
ナチス主義者や新右翼の暴力を
俺は見た、広場で爆弾が爆発するのを
うかつなアナーキストが窓から転落するのを……

こんな感じで、この後もいろいろとイタリアの歴史の暗部が記されていきます。具体的な名前も登場し、「俺はボルセッリーノを虐殺し、悪徳商人を保護した」という一節も出てきます。ボルセッリーノとは、マフィア撲滅のために戦い、そして暗殺された判事パオロ・ボルセッリーノのことです。この歌の「俺」はまさにイタリア自身のことで(正確には、おそらく戦後のイタリア第一共和制のこと)、これはイタリアが自らの記憶を歌った歌であると言えるでしょう。

もう一曲、反マフィアをテーマにした曲を挙げておきます。

■I cento passi


以前、『ペッピーノの百歩』というイタリア映画が日本でも公開されました。これは60年代にシチリアで反マフィア運動を行なったペッピーノ・インパスタートを描いた映画ですが、この映画にインスピレーションを得て作られた曲が『I cento passi』(「百歩」の意)です。この曲は2004年のアルバム『¡Viva la vida, muera la muerte!』に収録されています。

これらの曲から、Modena City Ramblersは非常に政治的なバンドであるという印象を受けるかもしれません。実際そうであるし、コンバット・フォークという名称には、まさしく社会的な戦いの手段としての音楽という意味合いが込められているようにも思えます。70年代に活躍した西ドイツのとあるロックバンドが「音楽は武器だ」(Musik ist eine Waffe)という発言を残していますが、その言葉はおそらくコンバット・フォークにも当てはまるでしょう。

しかし、誤解してはならないのは、それだけではないということ。Modena City Ramblersの根底には、フォーク音楽への、特にアイルランド・フォークへの愛があるということです。彼らに限らず、そもそも音楽を演奏するというのは、ただ武器として、ただ手段として、音楽を利用しているだけに過ぎないというのではなく、音楽が好きだから、という動機が常にそこにあるのは当然なことでしょう。

■In un giorno di pioggia


広がる空の下、膨れ上がった雲、港道、荒れ野、地の精、妖精たち……アイルランドの風景がこの曲では歌われています。

雨の日だった、ぼくが君に出会ったのは
西風が優しく微笑んでいた
雨の日だった、君を愛することを知ったのは
君はぼくの手を取り、連れて行ったんだ……

前述の社会派フォークとはうって変わって、アイルランドへの愛に満ちた優しい一曲です。

そして、最後にこの曲を。
「道」と題されたこの曲は、イングランドやポルトガルを旅し、繰り返される出会いと別れ、そして再会の希望を歌ったさわやかな曲です。

■La Strada


よい旅を! 親愛なる兄弟
君がどこへ行こうと、素敵な道が開けるように
もしかすると、いつかまたぼくたちは出会えるかもしれない
再び、この道の上で

Modena City Ramblersの旅はまだまだ続きそうです。

イタリア音楽コラム
~ ロック・イタリアーノの軌跡 ~ 第6回
2011-09-30