2011年、しばらく隠遁していたある男が、数年ぶりに音楽の世界に戻ってきました。その久々のライブでは、かつて彼が在籍したバンドの曲が数多く演奏されたそうです。その男の名はGiovanni Lindo Ferretti、そして彼が80年代に率いていたパンク・バンドが、今回紹介するCCCP Fedeli alla lineaです。CCCPは80年代イタリアを代表するバンドであり、次世代の数多くのミュージシャンたちに多大な影響を及ぼしています。 ■Mi ami?
この初期の代表曲「Mi ami?」のように、猥雑で諧謔味溢れた歌詞にノリのいいポップな曲調を得意とするCCCPの結成は1982年。80年代初頭に西ベルリンでGiovanni Lindo Ferretti(ヴォーカル)とMassimo Zamboni(ギター)が出会ったことがそのきっかけでした。バンド名の由来はもちろんソビエト連邦であり(CCCPはキリル文字によるソ連の略称、ローマ文字ではSSSR)、彼らは「親ソビエト・パンク」を標榜していました。Giovanni Lindo Ferretti自身、かつてLotta Continua(イタリアの極左過激派)の活動家だったことを告白しており、その政治思想は本気のものだったようです。 とはいえ、CCCPがストレートな政治的主張を行なうバンドであるのかと言えば、決してそうではありません。例えば、1984年以降、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムという構成の上に、さらに「人民芸術家」と「功労女優」という奇妙なパートが加わります。どちらも元々はソ連の文化称号です。このような、ある種、ソ連をパロディ化するようなスタイルが、このバンドの特徴でした。「人民芸術家」と「功労女優」がどういう役割を担っているのかは、次の動画を見ればすぐにわかります。曲は「Live in Pankow」と「A Ja Ljublju SSSR」です(ちなみにPankowは東ドイツの都市であり、後者の曲では前奏でソ連邦国歌が引用されています)。 ■Live in Pankow
■A Ja Ljublju SSSR
ジェネシス時代のピーター・ガブリエルを思わせるような、妖しい格好をして妖しい芝居をしている男女二人が「人民芸術家」と「功労女優」です。シアトリカル、というよりも学芸会と言ったほうがいいような、そんなパフォーマンスが繰り広げられています。 こうした独特のスタイルを用いて、マジなのかネタなのかわからないような、おそらくはそのどちらにも取れるような、かなりねじれた仕方で、ソビエト愛や政治性を表現する(同時に、茶化す?)、そこにCCCPの魅力のひとつがあったのではないかと思います。 後期になると、初期のような勢いのあるポップな曲は鳴りをひそめ、次第に重厚で複雑な曲が作られるようになっていきます。そうした時期の代表曲と言えば、次の「Aghia Sophia」と「Annarella」でしょう。 ■Aghia Sophia
■Annarella
こうした曲調はGiovanni Lindo Ferrettiがその後に結成するCSIやPGRに受け継がれていきます。ラストアルバムの末尾に収録されている「Annarella」では、その静かな曲調に相まって、「まだ終わらない、終わらない…」と繰り返される物悲しいリフレインが、逆にCCCPの終焉を暗示しているかのようです。実際、ソ連崩壊の前年にCCCPは解散してしまいます。そしてGiovanni Lindo FerrettiとMassimo Zamboniは次のステージへ向かうことになります。 次回はCCCPの後続バンドであるCSI、PGR、さらにはGiovanni Lindo Ferrettiのソロ活動をご紹介します。
イタリア音楽コラム ~ ロック・イタリアーノの軌跡 ~ 第8回 2011-11-25