10回目を迎えました本コラム。「ロック・イタリアーナの軌跡」というタイトルがついておりますが、個人的に好きなバンド、気になるバンドを紹介しているだけで、あまり「軌跡」という感じはしませんが、残りもこんな感じでご紹介していきますのでご了承ください。さて、新年最初に取り上げるのは、ヴォーカルがとても特徴的なバンドです。どんな風に特徴的なのか、とりあえずはお聴きください。 ■Il primo dio(最初の神) もはや「ヴォーカル」と呼ぶのがはばかられるような、まさしく詩の朗読。こういうスタイルの曲は時々耳にすることはありましたが、バンドとして全編これで通しているというのは、なかなか珍しいのではないかと思います。少なくともイタリアのバンドでは私は他に聴いたことがありません(ご存知の方がいればぜひ教えてください)。そして、このバンドがMassimo Volumeです。 エマヌエル 最初の神 ランボー 最も美しきものへの祈り ランボー 青年期の到来 完全なイメージ 完全な感覚 そして雨の中、今日、おまえたちの叫びが…… 先ほどの曲の歌詞の一部を訳してみましたが、この曲「Il primo dio」は、イタリアの詩人エマヌエル・カルネヴァーレへの、そしてアルチュール・ランボーへのオマージュであり、このバンド、Massimo Volumeの代表曲のひとつです。Massimo Volume(「最大ヴォリューム」の意)は1991年にボローニャにて結成され、1993 年に最初のアルバム『Stanze』を発表。しばらく活動を行なった後、2002年に一度解散しています。そして休止期間を経て2008年に再結成、現在も活動中です。 ノイジーなギターサウンドが響き渡る中、表情豊かでありつつもどこか抑制された朗読風の歌唱が縦横無人に駆け巡る、そんな印象を受ける彼らの曲の歌詞はヴォーカルとベース担当のEmidio Clementiがすべて書いています。歌詞がとても重要なバンドですので、雰囲気をつかむためにも、断片的になりますが拙訳を添えてお勧めの曲をいくつか挙げておきます。 ■Fausto(ファウスト) ファウスト、揺れるお前の麻薬漬けの天使たち 今夜俺たちは繁華街をぶらつく 酔っぱらった老僧のように陽気に 世界の重さは愛の重さだってことはわかっている 支えるにはあまりにも純粋すぎる (ここでのFaustoは、彼らのセカンドアルバムの共同プロデューサーであるFausto Rossiのこと) ■Stanze Vuote(空っぽの部屋) 俺たちは閉じる 箱の 中に 人生の断片 出て行くと 残って いるのは 空っぽの 部屋 2011年には、Bachi da Pietraとの共同名義のミニアルバムが発売されました。Bachi da Pietraは、Giovanni SucciとBruno Dorellaのロックデュオです(GiovanniはポストロックバンドMadrigali Magriのメンバー、そしてBrunoはノイズ系ロックバンドOvOで怪しい覆面をつけてドラムを叩きまくっています。どちらも面白いバンドですので、興味のある方はYouTubeでぜひ検索してみてください)。このミニアルバムでは、未発表曲とともに、互いのバンドのカヴァー曲が収録されており、次に挙げた「Litio」という曲にはBachi da Pietra版もありますので、オリジナル版と聴き比べてみると面白いです。 ■Litio(リチウム) おまえはリチウムが自分を変えたと言っていた 確かにおまえの思考は今きれいになった だが色あせてしまった 太陽の下に干した古いシーツみたいに 最後にとても短い歌詞の曲を挙げておきましょう。 ■Sotto il Cielo(空の下) 窓の外、すべては流れ去る 飛んでいく鳥 歌詞はこれで全部という実に短いもの。静寂と無常を感じさせる、まるで俳句のような印象のとても美しい曲です。 Massimo Volumeの「朗読ロック」とでも言うようなスタイルでは、歌詞内容がわからないと少しきついかもしれませんが、実に魅力的なサウンドが展開されておりますので、それだけでも十分に楽しめると思います。
イタリア音楽コラム~ ロック・イタリアーノの軌跡 ~ 第10回 2012-01-27