マンションの最上階の窓の内側に、数ヶ月前から小さな瞬く炎が現れて一晩中灯っている。私はその部屋に「未亡人」が住んでいることをよく知っていた。重い病気の夫を何年か世話し、彼が亡くなった今では出かけるのは日用品を買いに行くときだけ。まるで思い出の中の夫を諦めきれずに永遠に看病しようとしているかのようだった。 しかし説明がつかないのは、その小さな炎である。それはかすかな光でマンションの中庭全体を神秘的に照らすのだ。 もはや日中も私の心の中で灯り続けているその炎について、何かしら知りたくてマンションの集会の際に出席者に聞いてみたが、誰ひとり説明できる人はいなかった。そこで私は現場を押さえようとしてみた。彼女は夜にキャンドルを灯すか窓際に置くかして、朝はおそらく暁の中でひそやかにその炎を消して片付けるのだろう。そこをとらえようと思ったのだ。 私は長いこと待ったが、どんなに集中してもその姿をとらえることはできなかった。それでもなお、私の目をかすめるかのようにその光は現れては掻き消えた。 しかし、そうして機会をうかがっていたある日、ついに私はエレベーターで彼女と出会ったのだった。 炎の秘密について話そうと互いに前から思っていたかのように、私たちはパッと目が合った。 「なぜ毎晩私がキャンドルを灯すのか知りたいのね? 私は夫に約束したの。世界で毎日三万人もの子どもたちが飢え死にしていることを忘れないために、あなたが亡くなったら毎晩キャンドルを灯すわって。 彼は何年もアフリカに滞在して、亡くなっていく子供たちを目の当たりにしていたの。そのことを決して忘れることができなかったのよ」 こんなにも深刻な悲劇を日々忘れ去っていく豊かな人間たちの残酷さを私は理解できないし受け入れられない。テレビのニュースは小さな悲しみを取り憑かれたかのよう伝えるくせに、日々繰り返される重大な悲劇を生んでいる権力構造のいびつさを暴こうとはしないと、夫は生前彼女に語っていたらしい。 私はこの強く澄み切った心の持ち主に目を見張った。 エレベーターの扉が軋みながら開いた。 「たとえばロシアの学校で子どもたちが殺されたとかいうような様々な悲劇に対して、人々が、心が締め付けられたりかわいそうだと口にしているかぎりは、どんなことでも日常の悲しみのうちに収まっていくわ。でも、夫のように、三万人の子どもたちが毎日餓死していくのを実際に知っていると何かせずにはいられなくなる。それで私は、毎晩炎を灯すことにしているのよ。 みんなに言って頂戴、命あるかぎり、私が毎晩炎を灯すのはこのためだって」 彼女には言わなかったが、いつの日か彼女が亡くなっても、その小さな炎は窓を替え、私のところで灯り続けるだろうと思った。
訳:山崎ちひろ(ちひろショコラ) テレビ番組『世界遺産』で一目惚れしたアマルフィが後押しして大学でイタリア語を学ぶ。2008年からはトルコ語を集中的に学習。宗教や信仰の言語への現れ方や身体の心への現れ方などに関心あり。